2017年6月4日日曜日

Statement

ごあいさつ - Cognitive Map によせて

下関は本州の西の端点というユニークな地理的特徴を持ちます。本州と九州との接点であり、釜山と(かつては大阪と)フェリーでつながっており、場所と場所、ひととひとの交流の結節点として捉えることができます。会場である青木屋ビル1Fは料理教室として30年以上利用されてきました。ひとの営みついての経験を共有し続けた場所ともいえるでしょう。こうした下関というまちと会場である青木屋ビルの、空間的な特徴に着目し本イベントを企画しました。

Cognitive Mapは認知心理学の用語で、環境に対する適応行動のもととなる、ひとの内部に生じる環境についての認知構造だといいます(*1)。ひとがどのように空間を受けとめているかをモデル化したものといってもよいでしょう。本イベントではこの言葉の範囲を、"環境の認識のしかたとそれにもとづいた表現" まで広げて捉えようと思います。そもそも環境の認識やそれにもとづく世界の再構築は、アートにとって (人類にとって) 長らく行われてきた普遍的なテーマのひとつであり、とりわけ珍しくないことかもしれません。

ひとの環境や空間の認識は、時代や文化によって変化します。現代はとりわけ、ひとびとが発する情報がより速く広く影響するようになり、個人間や集団間の交流がより活発になった時代ということに異論はないでしょう。この結果、新たな出会いを通じ、複数のグループや領域にまたがる、すなわち異なる価値観を持つこれまで他者同士だったひとびとによるコラボレーションによって新たな創造が多く行われ、こうした活動は社会的にも重視されるようになってきました。一方で別のコンフリクトも引き起こされ得ます。

自らの環境の認識を伝え、また他者の環境の認識やその多様性にふれることは、それぞれのひとが環境に対するもう一つのパラメータを取り込み、視点の硬直を回避し、世界観に揺らぎを与え得ると考えられます。これは、コンフリクトの回避や問題の解決に加え、コラボレーション、クリエイションにおいても、大きな役割を果たすのではないでしょうか。

本イベントが、他者の、また自らのCognitive Mapに思いを寄せるきっかけとなれば幸いです。

2017年5月
moppala 代表 坂井洋右

*1 心理学の基礎, 今田寛ら, 培風館, 1993, pp.16


Creative Commons License