Recursion 再帰
諸岡光男 / 田熊沙織 MOROOKA mitsuo / TAGUMA saori
Screen Printing(シルクスクリーン)、映像、センサー、カメラ
Screen Printing(シルクスクリーン)、映像、センサー、カメラ
シルクスクリーン(技法)について
- シルクスクリーンは、版を使って、平面に色・形等の図像を定着させる。
- シルクスクリーンは、主に1つの版で1色刷ることが出来る。多色刷りの場合はその色の数だけ版が必要となる。
- シルクスクリーンは、カラー写真のように複雑で多様な色彩の場合、CMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)の網点状に分け、それぞれの版を作成、印刷時に再合成することで元の色彩をほぼ再現することができる
- 「版」はシルクスクリーンにおいて、世界を構成するためのツールである。
- 複数の「版」を使い、一度合成することで、ひとつの世界を作り出しているといえる。
向かって右の壁面
- 向かって右の壁面のシルクスクリーンの図像は、元となる絵をC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)に色分解してそれぞれの版を作り、その3つの版をそれぞれCMYのインクで重ねて刷っていくことによりできている。
- 向かって右の壁面のシルクスクリーンの図像(左)は、電子回路と文様を組み合わせたもの。
- 向かって右の壁面のシルクスクリーンの図像(右)は、蔦模様の背景の上に電子回路と文様の組み合わせを加えたもの。
ーこれらのモチーフを選んだ理由
- 今回の展示のタイトルであるCognitive Map から連想した。
- Cognitive Mapの”地図”を連想した時、道路を想像した。また、諸岡の近年のパフォーマンスで出てくる、モーターを動かす時の電子回路も想起した。
- それらを模様として表せないかと考えた時、ケルト文様に思い至った。
- ケルト文様の中でも、組紐文様は終わりがなく表される事が多い。しかし、そもそも電子回路は、始点と終点がある。始まりも終わりもなく永遠に繰り返す電子回路、基板はあるのだろうかと考え、模様を描いていった。
- 過去の田熊の作品は、CMY に分けた版を使って別の色を繰り返し刷り、制作していた。”終わりなく繰り返す”文様はこの事の延長である。
向かって左の壁面
- 向かって左の壁面には、線状の模様がプリントしてある楕円形の布があり、その手前に17.5×25cmのシルクスクリーンの木枠を吊るしている。
- シルクスクリーンの木枠自体はスクリーン生地を張っており、半透明である(透過性がある)。
- この木枠は、版として作成される前の段階のものである。
- それらはKinectで撮影され、その映像はPCに送られる。
向かって正面・棚
- 向かって正面の棚の中にある3つのシルクスクリーンの図像は、それぞれ、CMYの1色、1レイヤーでできている。
- それぞれの図像を重ねると、向かって右の壁面のシルクスクリーンの図像ができる。
- それぞれの図像は、ムービーカメラで撮影され、その映像はPCへ送られる
- 3つの図像は、PCで合成される。
向かって正面・モニター
- 向かって正面のモニターでは、左側の壁面の楕円形の布、シルクスクリーンの木枠、正面の棚の中にあるシルクスクリーンの図像3つが合成される。
- 左側壁面の手前にある、吊るされたシルクスクリーンの木枠の部分は、合成された色がなくなり、透過した奥の模様が見える。
- この合成は、シルクスクリーンで複数の版を作って一つの図像を作り出すことを、リアルタイムに行っているとみなすことができる。
- 通常のシルクスクリーンでは、一度合成され、定着すれば完了する行為を、リアルタイムにおこない続けている。
- 一度の行為で定着する世界を、あえてリアルタイムでおこない続ける、すなわちメディアに定着しない。
- リアルタイムに合成され続けるため、展示を見る鑑賞者には、定着されているように見える。
- 鑑賞者は、カメラの前に手をかざすことで、これがリアルタム処理されていることにようやく気づく。
- 静的な存在に対してリアルタイム処理を続けることは一見馬鹿馬鹿しく見えるかもしれないが、物事を「認識」するときは「認識されていなかった」時間もある。知らない時間と知っている時間は常に同時に流れている。
- シルクスクリーンの木枠があの位置に吊るされている理由は、シルクスクリーンの平面構造(2次元構造)に対して、その平面構造に折りたたまれたもうひとつの次元の存在を気づかせようとしているからである。もしくは、木枠の中だけが正しく(センサーに捉えられた図像として)モニターに映し出されているとも捉えることができる。
作品のコンセプト
- 版によって構成していく、シルクスクリーンというメディアの本質部分および、一度定着したら元にもどらないという(一見普遍の)性質を扱う作品である。
- メディア技術を用いて、シルクスクリーンの技法、プロセスを再構成する、もしくは構造を解体してみせる作品である。
- 人の営みや歴史の結果、構成され一見定着された現実の世界について、その要素還元、脱構築、および再構成の可能性を提案する作品である。
- 現実の世界に折りたたまれた、構造、プロセスについて注意を向ける作品である。
- 世界を構成する要素に近づき、手を伸ばすことで、その不確かさに気づくことができる作品である。
- 不確かな層(図像)の集結によって成り立って行く”Cognitive Map”を表した作品である。
タイトルについて
- タイトルであるrecursion、再帰は、自己参照(e.g.再帰性反射材)や入れ子構造、もしくはそれを繰り返す論理構造を指す。
- 本作品において、recursion、再帰は、構成された自らの存在、要素を参照することを意味する。
- 合成された図像から見ると、自らを構成する要素である3つのレイヤーを、そして、自らを構成するための仕組み、構造そのものである版を参照する。
- 鑑賞者が自らの価値観や世界観を参照し、その中にある一見定着されてしまっている要因に対する疑義、もしくは構成要素の不安定性の認識を促している。
- また、単純に「再び帰る」と読んで、反復する模様、分解された図像の再合成、過去に行なっていた諸岡のテレビ演奏の再演なども含むこともできるため、このタイトルとした。再び帰るがそこはまた別のものとなっている。
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